障害者権利条約19条

障害者権利条約第19条(自立した生活及び地域社会への包容)の解釈を定めた一般的意見を作成するためにTCI-Asia が、その後4月に国連提出をした資料です。

 

 

草案19条の一般的討議の日のUNCRPDのモニタリング委員会への提案

 

エグゼクティブ・サマリー

 

 

TCI-Asiaは、この地域で第19条にかんする教育と実践を高めるために存在する精神障害者とそのサポーターのアジアの連帯です。私たちは、第19条の一般的意見に向けた一般的討議の日のための行動に参加できることを嬉しく思っています。私たちの提案では、委員会に以下の5点を要望します。(1)「地域社会(communities」や「インクルージョン」の意味を練ること。(2)インクルーシブな地域社会が愛や支援、共有に向かう人間らしい切望を反映しているということを認識すること。(3CRPDの第19(b)条の解釈のために、ここに例証されている多くの既存のよい実践や考え方を認識すること。(4)自立生活の権利、地域へのインクルージョンの権利がどこでも人権として法的に認められるように、締約国がそれらを可能にするCRPDに沿った法律を明記すること。(5)第19条を実現するユニバーサルデザインを導入することにおける国際的な協力は、文化的/個人的な力や、アジアの精神的なヒーリングの実践、原住民族の権利を消し去らないことを保障すること。

 

TCI-Asiaについて

アジアにおける精神障害者をインクルージョンする地域社会変革へのアジア横断同盟(Transforming communities for Inclusion of persons with psychosocial disabilities, Asia: TCI-Asia)は、アジア地域における第19条とその実現に焦点をあてた精神障害者及びその組織と障害種別をこえたサポーターの独立したアジアの連帯です。2012年からTCI-Asiaは、地域社会での第19条の教育と実践を高めるために、数回にわたる各国の訪問、組織構成の過程での総会4回、戦略作りのためのワークショップ1回、調査と訓練をおこなってきた。また、15か国の100人以上のメンバーを動員している1)。私たちは、障害者権利条約のモニタリング委員会が、第19条の一般的意見に向けた一般的討議の日をひらいてくれることに感謝し、この過程に積極的に貢献したいと考えています。

 

19条の一般的な規定

人権があること以外に、第19条はCRPDを実現することの総合的な目的です。つまり、すべての障害者は、差別されることなく他の者との平等を基礎として自立生活し地域社会に包容されます。第19条は、新しいまたは高度な人権ではありませんが、条約の核心と考えられています。そのことは、一般的には平等及び無差別についての第5条で、それに加えてそれぞれの及びすべての条文で十分に強く表明されています。第19条は、個人ではなく、平等を確立したり他の者との平等を基礎として選択や支援、機会を創造したりする社会を変革する資源を見つけ出させます。締約国が第19条の履行において話をしなくてはならない4つの鍵となる利害関係者は、障害者とその家族、隣人、サービスの提供者(障害に特化したサービスと主流のサービス、政府のものと私的なものの両方)、全体としての社会です。第19条の網羅性は、他の者との平等を基礎としてすべての障害者の十分で効果的な参加も保障しながら、すべての人にとってインクルーシブな世界をもたらします。障害と開発に関するハイレベル会合(High-level Meeting on Disability and Development: HLMDD)の時点での総会介入と持続可能な目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の作成は、福祉国家主義から自己決定やインクルージョン、選択、人権の枠組みへと政策が開発利用ための枠組みを変えてかなくてはならないことを示しています2)20135月に障害者権利委員会3)は、国際コミュニティは「障害者が他の者の平等を基礎として開発を享有できる権利を保障するための措置をおこなう」べきであることを提言しました。

19条は[7]回「地域社会」に言及しています。私たちは、鍵となる要素としての「インクルーシブな地域社会」とはどのようなものか、豊かなイメージを提供することを障害者権利委員会に求めます。第19条についての高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights: OHCHR)によるテーマ研究は、なにが地域社会の構成要素にならないのかを例示しています。テーマ研究は、自由の剥奪についてのOHCHRの専門家会議によって最近また繰り返され4)、伝統的な障壁を取り除くことにおいて締約国を導く貢献をしています5)。障害者にとってインクルーシブな社会に沿った現代の人権において、何が地域社会なのかを建設的に詳しく述べておくことは重要です。

20135月の)プネでの会議において、5か国から集まったTCI Asiaのメンバーは、個人のアイデンティティや経験は、地域社会でしばしばおきているように、診断によって薄められたり医療サービスの利用者としてだけあったりすることはできないことを支持しました。アイデンティティは、親や兄弟、配偶者、教員、銀行員、牧師、農家、芸術家、郵便屋といった尊厳と自律性のある多様な役割を経験するための機会をもっていることを含んでいます。またそれは、尊厳と自律性をもって社会の福祉に情緒的にも物質的にも貢献できるようにするためでもあります。

世界のほとんどの文化において、他者へのケアや情緒的なつながり、利他主義は、基本的な人間の義務、または幸せに意味のある生活をおくるための私的な側面としてさえ普及しています。第19条は、平等及び無差別の権利の保障については譲歩しませんが、支援やケアを提供したり受けたりするために、この側面を反映して解釈することができます。「幸福(happiness)」と神経の多様性を結びつける広範囲の研究及び経済学の分野での最近の幸福(Happiness)にかんする研究は、共感は人間に不可欠であることを証明しています6)

地域社会とは、「社会資本」7)及び「現地の行為者のネットワーク」8)の有用性です。それは、ともに機能的な目標に到達するため、またあらゆる前提条件や成果を必要とされることなくわかちあったりケアしたりできる人間としてつながるために、相互関係と尊重の基盤の上に集まっている現地の環境における個人、集団、家族、近所の集合です。そのような精神的に見出されたネットワークは、家族、個人、家畜、農業、ほかの生活様式、無生物、土地、水、食べ物、そのほかの社会に生きる人間の行為と人工物を、有機的統一体のなかに束ねます。これは、インチョン戦略と持続可能な開発目標といった現存の開発枠組みに含まれている持続可能な世界の理想像です。テーマ研究は、「理想現実の地域社会(virtual communities)」がさまざまな社会的マスメディアで利用可能だということを認識してもいます。委員会は、すべての人のインクルージョンを導くため、また平和で思いやりのある地球の保存のために感情的に持続可能になることにむけて地域社会を変革することの重要性を強く認識してください。

新しい開発理論は、人々の地域社会や多様性、自己決定、及び人間の居住地とくに都市の持続可能性について考えることにおけるこの変革をとらえるための概念を提供します9)。正義論にもとづく経済学の理論である「潜在能力アプローチ(capability approach)」10)においては、生の特定の望ましい状態に到達するために、ある人がもっている機会の幅における平等性にもとづいて政策の結果を評価する必要があります。このアプローチにおいては、2つの側面に取り組む必要があります。それは、(1)すべての障害者の主体性及び個性を認識することと、(2)地域社会のインクルージョンを向上させることによって選択をつくりだすことです。

 

19条の特別な規定

アジア地域においては、多くの国では精神保健法制が存在していませんが、いくつかの国では最近新たに強制力のある精神保健法を採決していて、精神医療施設はかなり急速に増加し、その結果としてインクルージョンへの障壁が増大しています11)12)13)。近代化から壮大な建物やインフラ、強制的な住居としての閉鎖された施設を連想するというこの傾向は、中国や韓国の場合を例として、アジアにおいては障害者権利委員会からの最終見解に強くあらわれています。第19条についての一般的意見が以下のことによってアジアでのこの悩ましい傾向の発生を抑制しなくてはならないということを私たちは提案します。

(1)障壁をつくる古いまたは新しい法律を締約国が禁止するよう特別な指導をおこなうこと。また、自立生活のための権利及びCRPDで提示されている方法で地域に包容されるための権利を無条件に保護することによって、授権的な法律を制定したり憲法を修正したりすること。

(2)「住居の場所の選択」を例示することを含めて、精神障害者のインクルージョンにむけてキャパシティをつくるため及び家族及び地域社会を変革するために締約国によって支持される必要のある自立生活の例となる行動やプログラムを求めること。

私たちは、現地の及び文化的な文脈が住居施設やサービスの選択を決定するかもしれないということを委員会に訴えます。説明に役立つ実例を広範囲に加えることは、選択についての条文である第19(b)を十分に具体化するために、存在する必要のあるサービスの多様性を詳しく説明する一般的意見において使うことができます。

地域や近隣、家族における多くの「オルタナティブ」の発展は、集中的なピアサポート(Intentional Peer Support14)やソテリア・ハウス、オープン・ダイアローグ15)16)といった例から得られます。それらは、世界的に応用できるかもしれません。アジアの収入の高い国では、精神障害者に好まれる自立生活又はホステルのモデルであるクラブハウスのようなかたちで適用されている自助管理モデルも存在します17)。介助者(personal assistant)は、精神障害のある人と「ともにいる」または「のために存在する」という注釈のうちにおさまる、より単純な交際や精神的な支援の提供を含みます。CRPDの価値と原則にもとづいたピアサポート及びコミュニティを基盤にしたケアの提供システムのための強い主張が世界的にも、アジア地域にも存在します。

アジアの収入の低い国にも、危機的状況、貧困、ホームレス、放浪に陥ったときの「よい実践」の例が存在します。あるプログラムは、地方自治体の支援を得て路上でピアサポート、寝床、そのほか不可欠なサービスを提供します18)。別のあるプログラムは、訓練を受けた公式でないケアの提供者、地域社会のメンバー、家族のメンバーといった多様な人を巻き込んで、危機的な状況への支援を必要とするかもしれない人とともにいるための「ご近所の警戒」のシステム設置し、「ケアの輪」を提供します19)。強制的なケアの問題をめぐって対立のあるとき、地域での協議や基本ユニットでのキャパシティをづくりがサービス提供者によって始められています。これは、家族が愛やケア、支援を提供するためにエンパワーされていると感じられるためです。そのような利用しやすく手ごろな標準化されたコミュニティケアのプログラムにおいて、地域社会は愛とケアを提供したいというその人たちの思いと義務を気づかせます。家族は、合理的配慮を提供し、本人の意思決定を尊重して尊厳を回復させるよう教えられます。近所での児童のケアや機能上の代理(proxy)関係は、選択の代わりに生活を拡大し保護するためのいくつかのプログラム20)において受け入れられている実践です。そのプログラムは、たとえば教育システム、現地の治療者(healers)、医療者、開発者、伝統的な治療者(healers)など現存する現地のアクターのネットワークへの接続や、そのキャパシティづくりによって、感情的な効果も増大させます。それらの社会的な関係は、ストレスや疲れになるかもしれませんが、刑事上の入院、施設収容、成年後見制度の法的基準の権力はまったくないかもしれません。インクルージョン・インターナショナルは、家族及び地域社会をエンパワーするという文脈において開発実践へのインクルージョンについての2本の役立つ報告21)22)を提出しました。

 

19条の実現における締約国の一般的な義務

7:児童は、不必要な「早期介入」、とくに学校及び家での行動を抑えるための有害な向精神性の薬物の使用や早期の施設収容から締約国の規定によって保護されなくてはならなりません。家族の栄養状態は、すべての人、とくに児童の精神保健に影響するかなり要因として認識され統制されなくてはなりません。

8:締約国は、(1)精神障害へのスティグマをなくすこと、地域社会へのインクルージョンを促進すること、温かい配慮と「ケアの輪」をつくりだすことのために精神障害について地域社会及び家族の意識の向上と技術を向上の重要性を認識し、(2)地域社会が他の者との平等を基礎として精神障害者を受けとめ、受容、適合、支援、包容するために、脱施設化が計画されている地域では、地域社会のキャパシティづくりをおこなわなくてはなりません。そして、彼らが歓迎されるよう地域社会に変えていく人の貢献を歓迎しなくてはなりません。

10:締約国は、家庭環境や地域社会で生きる精神障害者は栄養失調、飢餓、怠慢の高い危険、または不健康な状態、依存、貧困を導くほかの差別に直面しているかもしれないため、彼らの生命に対する権利を保障しなくてはなりません。

11:アジア地域は、自然災害、ほかの人道上の紛争や緊急事態が起こりやすい傾向にあります。締約国の義務と計画は、すべての障害者のインクルージョンを担当する責任があります。

12:締約国は、家族及び地域社会なかでの生活のすべての領域において完全な法的能力を認め、自律性、自立生活、十分で効果的な参加を可能にする意思決定を支援するシステムを認識する法律の存在を保障しなくてはなりません。

13:すべての障害者にインクルーシブで無差別な法律のための義務を遂行することによって、第19条のための授権法的な環境を保障することです。他の者との平等を基礎とした精神医療ケアの個人の選択の権利は、広範囲な医療ケア法制の一部となるかもしれません。もしアジアのいくつかの国が精神保健法をつくるという選択をするのであれば、それは必ずCRPDに違反しています。脱施設化に向かう持続可能な地域社会支援とともに、地域で生活し医療ケアを受けられる権利を認識しなくてはなりません。

14:脱施設化を保障するCRPDに準じた新しい法律の可能性と、アジアの数か所の精神病院が都会に存在することを想定して、活気に満ちた幅広い都会の精神及びインクルージョンのプログラムのために独立のガイドラインを委員会は考えなくてはなりません。そのような計画は、経験に導かれ、文脈を大切して、障害者を中心に置き、全体としての地域社会を巻き込むシステムを含んでいなくてはなりません。

15,16:締約国は、施設での虐待や緊急性を根拠としたより私的なコミュニティでおこる虐待に対処しなくてはなりません。

18:他の者との平等を基礎として国籍及び完全な市民権を享有するための憲法上の支援が、無能力についての法律を修正することによって保障されなくてはなりません。

22:(1)植民地の無能力及び成年後見についての法律が、多くのアジアの国、とくに共和国で見られます23)。財産、結婚、離婚の文脈においてとくに精神障害をもつ女性は、医学的治療の記録及び精神病院への入院の内密性を危険にさらされています。(2)地域社会において「自己」と「他者」の境界は、文化的及び社会的に決定されます。しかし、精神障害者のプライバシーは、他の者との平等を基礎として守られ保障されなくてはなりません。

25:非医学的または伝統的なオルタナティブを探し出したり利用したりするための精神障害者の選択を禁止する医療の専門職の門番のような実践は、しばしば彼らの社会資本と自己治癒の資源の減少を導くものであり、それに対処しなくてなりません。障害者のセルフケアの選択や生活様式に押しつけがあってはなりません。

28:締約国は、社会的経済的に貧しい環境にある精神障害者やその家族が、彼らが必要とする保険制度へのインクルージョン、年金及びほかの社会保障制度、住居、貧困の削減、公的分配制度という支援が受けられるようにすることを保障しなくてはなりません。

32:締約国は、国際協力が、第19条が文化的/個人的なキャパシティ、アジアの精神的な(psychosocial)実践や生活様式、原住民の権利を消すものではないという認識してユニバーサルデザインを導入することを保障します。

 

[原註]

1)この提案は、TCI-Asia2012-2015年のあいだの協議の過程を経て書かれました。私たちは、すべての参加したメンバー、同盟者、パートナー、スポンサーの支援と貢献に感謝しています。

2) WNUSP and Bapu Trust, (2013). “Human Rights of persons with psychosocial disabilities in the post 2015 Inclusive Development Agenda: Towards HLMDD, September 2013”.

3) ‘Statement of the Committee on the Rights of Persons with Disabilities on including the rights of persons with disabilities in the post 2015 agenda on disability and development’, May 2013, United Nations Human rights, Office of the High Commissioner, Geneva.

4) Expert meeting on deprivation of liberty of persons with disabilities, 8-9 September 2015. http://www.ohchr.org/EN/Issues/Disability/Pages/deprivationofliberty.aspx accessed 26-02-2016.

5) OHCHR (2014) “Thematic study on the right of persons with disabilities to live independently and be included in the community” A/HRC/28/37 12th December 2014.

6) Matthieu Ricard, (2003) Happiness. A Guide to Developing life’s most important skill. Little, Brown and Company, New York.

7) McKenzie, K. “Globalisation, Social Capital and Mental Health”, in Global Social Policy, 2008, Vol. 8, pp. 359-377.

8) A concept developed by Latour, Bruno in his book, (2010) The making of law: An ethnography of the conseil d’etat. Cambridge: Polity Press.

9) UNHABITAT, (2015). The right to adequate housing for persons with disabilities living in cities: Towards inclusive cities. [Eds.] Szporluk, M., Pal, A. and Bayer, M. UNHABITAT, Geneva.

10) Sen, A. K. (2009). The idea of justice. London: Penguin, Allen Lane.

11) TCI Asia, Working Group on Strategy Development Meeting, APCD Training Center, Bangkok, 9-11 June, 2015

12) KAMI, (2013). Parallel report on the situation of persons with mental illness in Korea. Submission to the UNCRPD Committee.

13) Mr. WonYong Kim, NHRC investigator, Korea, who presented the Parallel report before the CRPD committee, noted the higher occurrence of mental institutions in Korea, following adoption of a new mental health law. In Korea, 73.5% cases are involuntary, 4 times as high as other countries. 262 days average stay.

14) http://www.intentionalpeersupport.org/

15) Finland, https://www.youtube.com/watch?v=aBjIvnRFja4

16) Peter Statsny and Peter Lehmann, [Eds.] (2007). Alternatives beyond psychiatry. Peter Lehmann Publishing, Berlin.

17)  TCI Asia, (2014). 2nd Plenary, Hotel Prince Palace, Bangkok.

18) Ishwar Sankalp, Kolkatta, India.

19) Seher program of the Bapu Trust for Research on Mind and Discourse, Pune, India, https://www.youtube.com/watch?v=t5PC0yBK3ow accessed on 25-02-2016

20) Shared in TCI Asia consultation on Legal capacity, Incheon, Korea, 18-19 November 2015, Orakai Sangdo Hotel, Incheon.

21) Inclusion International, 2012. “Inclusive Communities = Stronger communities. Global Report on Article 19”, London.

22) Inclusion International, 2014. “Independent but not alone. A global report on the right to decide”. London.

23) Dhanda, Amita (2000) Legal Order / Mental Disorder. New Delhi: Sage Publications.

 

TCI Asia Contacts:

Convenor (2014- ): Bapu Trust for Research on Mind & Discourse

704 Fillicium, Nyati Estate, Mohammedwadi, Pune 411 060, India

www.baputrust.com, bt.admfin09@gmail.com 91-20-26441989

 

(訳:伊東香純)